

簡単にいうと、債務者の資産を調査、清算するために裁判所が破産管財人をつける案件が管財事件です。債務者に清算するだけの資産もなく、破産管財人をつける必要もない案件が同時廃止事件です。つまり債務者の所有している財産の多寡によって決まります。
自己破産は、債務者の資産を処分して、その代金を各債権者の債権額に応じて配当をして精算し、それでも支払いきれなかった残債務を免除するという手続きです。
この清算手続きを行うのが、裁判所が選任する破産管財人です。破産管財人が行う清算手続きを、法律用語では「狭い意味での破産手続」と呼びます。これに対して残債務を免除する手続を「免責手続」と呼びます。
このように破産手続は、①狭い意味での破産手続と、②免責手続の二つに大きく分けることができるのです。
破産管財人は弁護士が選任される場合がほとんどです。破産管財人は、債務者の財産を調査し、管理したうえで処分してお金に換え、各債権者に配当します。その仕事は無報酬というわけにはいきません。管財人の報酬は、債務者の財産の中から裁判所を通じて支払われます。
しかし、債務者がめぼしい資産を持っておらず、破産管財人の報酬を支払うにも足りないという場合は、破産管財人を選ぶことはできませんし、また選ぶまでもないとも言えます。
そこでこのような場合は「狭い意味での破産手続」を行うことはなく、直ちに次の免責手続に入る扱いとなります。
破産管財人を選ぶ場合を「管財事件」。破産管財人を選ばずに、すぐに免責手続に入る場合を「同時廃止事件」といいます。


そうですね。債務者が、自己破産を申し立てると、裁判所は本当に借金を返済することができなくなっているのかどうかを審査し、これが認められると「破産手続を始めますよ!」という「破産開始決定」を出します。
ところが、破産手続を始めることに決めたものの、破産管財人の費用を支払うだけの資産もないことがわかっているケースでは、実際には破産管財人は選びませんし、財産を処分して清算する「狭い意味での破産手続」は行わないまま手続としては終了してしまいます。
この手続の終了を、法律用語で手続の「廃止」と呼びます。そこで、破産手続を始める宣言をしたと同時に、その手続を終了(廃止)してしまうので、「同時廃止」という呼び方をしているのです。一般の方には、なんともわかりにくい名前で、私もなんとかならないものかとは思いますね。
ご参考:これに対して、管財事件として破産管財人がつき、債務者の資産を調査したけれども、結局、処分して配当するだけの資産がないことが判明した場合は、その段階で「狭い意味での破産手続」を「廃止」することになります。これは「異時廃止」と呼ばれます。




予納金とは、破産申し立てにあたって、裁判所に納めなくてはならないお金です。予め納めるので、「予納金」です。
管財事件の場合、この予納金から、破産管財人の報酬金も支払われます。これを「引き継ぎ予納金」と言います。
弁護士である破産管財人の報酬金まで含まれるので高額になります。例えば、東京地裁の場合、通常の自己破産では予納金全体として約22万円です(※)。
※管財事件のうち、特別に予納金が安く済む「少額管財事件」の場合です。個人の自己破産の場合、申し立て手続きを弁護士に依頼すると、ほとんどの方が、この少額管財事件の対象となります。但し、このような特別な取り扱いの有無は各裁判所によって異なります。




管財事件と同時廃止事件の区別の例
債務者の資産 | ||
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現金 | 東京地裁、横浜地裁など | 33万円以上が管財事件 |
大阪地裁、名古屋地裁など | 50万円以上が管財事件 | |
現金以外(貯金含む) | 資産価値20万円以上は管財事件 |
上記の区別基準の他にも、次のような諸条件によって、同時廃止事件となるか、管財事件となるかが左右されます。
- ・不動産を所持しているケース
- ・資産価値20万円未満の資産であるが、それが複数あるケース
- ・退職金債権があるケース
- ・個人事業主であるケース
- ・会社代表者が会社の破産と個人破産を同時におこなうケース
- ・債権者数が多いケース
- ・免責不許可事由があるケース
これらの取り扱いの例を示しましょう。
- ・一定額以上の現金(例:東京地裁33万円、大阪地裁50万円)を有している場合は、その他にも資産がある可能性があり、破産管財人によって資産を調査する必要があるので管財事件とします。
- ・資産価値20万円以上の資産があるなら、それは処分して清算する必要があるから破産管財人をつけて管財事件とします(※)。
- ※ご参考:この資産価値の捉え方も様々な手法が用いられます。
- (a)不動産を有しているケースで、それを担保としたローンがある場合は、ローンの残額と不動産の価値を比較して、ローンの残額が不動産の価値の1.2~1.5倍程度の場合は(売却代金は、担保権のついたローンの返済に優先的に充てられてしまうので)、管財人が処分する資産として扱わないとされています。但し、この1.2~1.5倍という基準も裁判所によって異なります。
- (b)資産価値は、各資産毎に20万円未満であればよく、積算はしません。
例えば、15万円の宝石と10万円の中古車があっても合計25万円の資産とは捉えず、宝石も中古車も処分されません。
ただし、預金債権は、別々の口座であっても合算されます。保険の解約返戻金も同様に合算されます。 - (C)退職金債権は、破産申立て時点で自己都合退職したと仮定した場合の支給見込額の8分の1が20万円未満か否かで決めます。
ただし、実際にすぐに退職予定のときは、支給見込額の4分の1が20万円未満か否かで決めます。
以上の評価基準も、やはり裁判所によって違うので、十分に注意が必要です。
- ※ご参考:この資産価値の捉え方も様々な手法が用いられます。
- ・債権者数が多いとか、会社の破産も同時とか、免責不許可事由があるなどの場合も破産管財人によって、慎重に調査をしてもらう必要があります。
このように、管財事件となるのは、破産管財人による業務(資産の調査、管理、処分、換価、配当)を要求することが適当と判断される場合と言えます。
しかし、どのような場合が、それに当たるのか、その基準は各裁判所によって違います。最終的には、担当裁判所の裁量によって決まります。
そこで、破産申し立てにあたっては、今ある資産をどのように評価するのか、どの裁判所に申し立てるべきかという選択も含め、非常に微妙な判断が必要となります。
ですから、自己破産を検討される場合は、弁護士や司法書士の専門家に相談されることが間違いがありません。


しかし、弁護士が少なく破産管財人を確保することが難しい地域では、同時廃止事件の条件を緩やかにしなくては、制度の運用ができないからです。
本来、同じ破産制度の運用なのですから、全国的に統一することが公平という意見もあり、最高裁判所も全国の裁判官と議論を重ねるなどして改善を進めています。