

そのとおりです。

自己破産では、借金の支払い義務がなくなる免責を認めてもらう代わりに、債務者の資産は処分されて債権者への配当となり、清算されてしまいます。個人再生でも、債務者の資産は処分されるのですか?

いいえ。自己破産と違い、個人再生では、債務者の資産は処分されません。

財産を処分されることもないのに、借金を減額してくれたうえに、分割払いを認めてもらえるのですか?とても債務者に有利な扱いに思えるのですが、どうしてそのようなことが認められるのでしょう?

それは、債務者を破産させてしまうよりも、一定の条件で減額した金額を分割払いさせるほうが、債権者、債務者、そして社会全体の利益になるからです。

債権者、債務者、社会全体の利益ですか?どういうことでしょうか?

では、個人再生という制度が、何を狙いにした制度なのかを詳しく説明しましょう。
再生制度は、もともとは個人ではなく、企業を対象とした制度なので、企業の倒産危機の場合を例にとって説明します。
これを最初に理解していただくことで、個人再生制度の細かい内容も理解しやすくなります。
再生制度は、もともとは個人ではなく、企業を対象とした制度なので、企業の倒産危機の場合を例にとって説明します。
これを最初に理解していただくことで、個人再生制度の細かい内容も理解しやすくなります。
再生制度を理解するための例
金属加工メーカーである甲社は、特許を取得した独自の精密加工技術を有し、特定の金属製品分野では圧倒的なシェアを持つ優良企業でした。やがて甲社は事業の多角化を計画し、不動産会社を買収して新規にデベロッパー事業にも乗り出しました。
ところが、この経験の乏しい不動産分野では大失敗し、巨額の負債を抱えてしまいました。本業の金属加工分野は堅調ですが、不動産分野の負債が財務内容を悪化させてしまい、経営危機に陥りました。

仮に甲社が倒産して、破産となった場合、甲社は清算されることになります。

甲社に残っている資産を全部処分して金銭に換えて、債権者に配当して終わりですね。

そのとおり。会社のような法人の場合は、免責という手続きはありません。破産手続が終了すると、甲会社は解散となります。この世に存在しなくなるのです。
これは、債務者にとってはもちろんですが、債権者、社会全体にとっても、とても惜しい事態と言えます。
これは、債務者にとってはもちろんですが、債権者、社会全体にとっても、とても惜しい事態と言えます。

債権者にとって、惜しいとは、どういうことですか?

甲会社は、本業では独自の技術で圧倒的シェアを持つという強みがあり、今後も、本業だけなら利益を出せるのです。それなのに破産させてしまえば、債権者は、現時点の資産を処分した代金の分しか債権を回収できないわけです。

どうせ全額の回収はできないのだから、本業を続けてもらって利益をあげさせ、現時点の資産よりも多くの金額を返済に回してもらったほうが、債権者としてはお得だということですね。

はい。ただ、不動産事業の負債が収支を悪化させていますから、このままでは本業も継続できません。そこで本業を続けてゆけるよう、債務の減額と分割払いを認めてやるのです。

なるほど。独自の金属加工技術が失われることなく企業の活動を続けられるならば、経済社会全体にとっても良いことですね。
まさに、この観点から企業の経営再建を図る制度が「民事再生」制度であり、民事再生法という法律に規定されています。もともとは、中小企業の再建を狙ったものでしたが、今では大企業の再建にも利用されるほど、広く活用されるに至っています。
個人再生は、この「民事再生」を個人の債務者向けにした制度です。
企業では、取引相手、債権者、株主、従業員など利害関係者も多く、負債額も多額にのぼるため、企業を対象とする民事再生制度は手続きが複雑です。
これを個人の債務者が利用しやすいように手続を整備、簡略化したものが個人再生なのです。法律としては、民事再生と同じ民事再生法に定められています。

個人の債務者の場合も、今後も働いて収入を得る能力があるならば、減額したうえの分割払いであっても、自己破産されるよりは、債権者の回収額が増えてお得ということですね。

そうです。特に個人の債務者の場合は、企業と比べて保有している資産は少ないことがほとんどですので、自己破産して資産を清算しても、債権者が回収できる金額はほとんど無いか、ごくわずかです。それなら、減額してでも一部を回収できたほうが利益になります。
ここで、債権者側と債務者側、それぞれの利益という観点から、自己破産と個人再生を比較しておきましょう。
ここで、債権者側と債務者側、それぞれの利益という観点から、自己破産と個人再生を比較しておきましょう。
自己破産と個人再生
資産の処分・清算 | 債務の処理 | 債権者の利益 | 債務者の利益 | |
---|---|---|---|---|
自己破産 | 処分・清算される | 免責 | 破産時点に残っている資産の分しか回収できない | 資産は失うが、債務は免責 |
個人再生 | 処分・清算されない | 減額して分割払 | 今後の収入から回収できる | 資産は失わないが、債務の一部は返済 |
さらに、個人再生という制度を理解するうえでは、この制度が次の3つの特徴をもつものであることを頭に入れておくとわかりやすいです。
個人再生制度の3つの特徴
- 1.減額して、分割払いする制度であること。
- 2.資産は処分されない制度であること。
- 3.債権者にとっても、自己破産されるよりもお得な制度であること。
の分割払いとすることを、裁判所に認めてもらえる制度でしたね。