

任意整理のメリット
返済が楽になり、余裕をもって生活再建できる
任意整理によって、長期の分割払いが可能となり、引き直し計算や将来利息カットで支払総額も減額されていますから、月々の返済もこれまでよりも楽になります。
加えて、支払総額が決まっているので、生活の再建、生活設計をしやすくなります。
生活再建を図ることができるメリットは、全ての債務整理方法に共通ではありますが、任意整理は、それを裁判所を使わずに実現できる点に、よりメリットがあると言えましょう。
取り立てが止まる
弁護士・司法書士が任意整理を受任し、その通知が貸金業者に届いたならば、もはや貸金業者が債務者本人に取り立てを行うことはできません。
取り立ては、貸金業法によって禁止されており、これに違反した場合は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金となります。懲役刑と罰金刑の両方が科される場合もあります(貸金業法21条、47条の3)。
禁止される行為は、電話・電報・ファクシミリ・訪問ですが、弁護士らが代理人となれば、もはや債務者本人に支払いを請求しても効果はないことがわかっているので、郵便による取り立ても行われないのが実際です。
もっとも、これは任意整理だけではなく、他の債務整理方法を弁護士らに依頼した場合や、自己破産などの手続を本人が裁判所に申し立て、裁判所からの通知が貸金業者に届いた場合も同じですので、債務整理に共通したメリットと言えましょう。
弁護士らにお任せ
任意整理は、弁護士・司法書士に全てをお任せすることができます。
債権者らに受任通知を発送して連絡し、取り立てをストップさせるところから、取引履歴の開示、引き直し計算、返済条件の交渉、合意書の作成まで、全て弁護士らにお任せをしたままで良いのです。
債務者ご本人は、最初に弁護士らに相談をし、指示された必要な資料を提供するだけです。あとは合意書に書かれたとおりに、毎月の返済をしてゆくのみです。
これに対し、自己破産と個人再生は、弁護士を代理人として申し立てをすることができますが、管財事件では、債務者本人も破産管財人との面談や債権者集会への出席が必要です。同時廃止事件であっても、免責手続の際には、必ず本人が裁判所に出頭して裁判官からの免責審尋を受けなくてはなりません。
個人再生は、再生計画に求められる清算価値要件や可処分所得要件などの各種の法的な条件を満たすかどうかの審査が非常に厳しいため、再生委員の弁護士や代理人弁護士とのやり取りも頻繁に行わなければなりません。
特定調停で本人が申し立てをおこなう場合は、調停委員の手助けがあるとはいえ、すべてを自分でこなさなければなりません。
これらに比べると、任意整理の場合は、そのほとんどの手間が弁護士らだけで済み、債務者本人が行うことはほとんどありません。債務者本人は、ゆっくりと今後の生活再建に集中することが可能となります。
財産の処分は不要
自己破産では、債務者のめぼしい資産は全て処分して換金され、債権者への配当に充てられますが、任意整理では、その必要はありません。
また自己破産では、債務者が処分される資産を選ぶこともできません。一定額以上の価値のある資産は必ず処分されてしまいます。
任意整理では、仮に資産処分によって返済資金を調達するときでも、どの資産をそれに充てるかは、債務者が選ぶことができます。
債務額に制限はない
個人再生では、債務総額が5000万円以下(住宅ローンなどを除く)であることが必要ですが、任意整理には、そのような上限はありません。
収入に制約がない
任意整理は、債務を減額したうえ、分割払いをするという点では、個人再生と同じ整理手法と言えます。ですから、どちらも分割払いをしてゆく収入があることが前提です。
しかし、個人再生は債権者の同意がなくとも、裁判所が再生計画を認可して、減額と分割弁済の効力を発生させる強制的な制度です。
このため、再生計画を確実に実行できるかどうかが重視され、個人再生を申し立てることができる債務者は、反復・継続した収入がある債務者に限定されています(給与所得者等再生では、さらに給与のように収入の変動が少ない定期的な収入であることまで必要です)。
他方、任意整理は、債権者に強制するものではなく、あくまで債権者が同意して初めて効力を生じるものなので、債務者の収入に関する個人再生のような要件はありません。
もちろん、任意整理でも合意を守れるだけの収入があることは必要ですが、それは法律が要求するものではなく、事実上の要請に過ぎないのです。
支払総額に下限はない
個人再生では、債務額に応じて最低弁済額要件が法定されており、さらに債務者が自己破産した場合に処分して配当に充てられるであろう資産価値(清算価値)以上の支払いが要求されます(清算価値保障の要件)。
給与所得者等再生では、これに加えて、債務者の収入から本人と家族の生活維持費を除いた可処分所得2年分にあたる金額を3年間で支払うことが要求されます(可処分所得の要件)。
個人再生は、法が定める制度上の手続ですので、厳格な条件が設定されているのです。
他方、任意整理は当事者の交渉ですので、債権者が納得する限りは、最低いくらを支払わなくてはならないという要件は存在しないのです。
債権者を選ぶことができる
自己破産や個人再生は、裁判所を利用した強制的な法定手続きであって、そこではすべての債権者が平等に取り扱われることが要請されています。一部の債権者だけを特別扱いすることは許されません。
もしも債務者が、特定の債権者の存在を隠して裁判所に届け出なかったようなときは、その事実が発覚すれば、免責を受けることができなくなる危険性があります。
個人再生でも、一部の債権者の届け出をしなかった場合は再生計画が認可されず、個人再生が不成功に終わる可能性があるのです(ただし、個人再生では、住宅資金特別条項を利用する場合、住宅ローン債権だけは他の債権とは別に扱うことが特に認められています)。
これに対して、任意整理では、複数の債権者のうち、どの債権者と交渉をするかを自由に選ぶことが可能です。
例えば、家族・親戚・親友・勤務先といった絶対に迷惑をかけることができない借り入れ先への返済はこれまでの約定どおりに続けてゆき、貸金業者からの借り入れだけを任意整理の対象として弁護士に任意整理を依頼することも自由なのです。親しい人達などには迷惑をかけることなく債務整理を行うことが可能です。
また債権者が複数の貸金業者だけの場合でも、金利が高い債権者だけを選んで交渉することや、抵当権・質権・保証人・連帯保証人がついている債権は外して、それ以外の債権について整理するといったように、貸金業者の中でも選別することもできるのです。
借金の原因は問わない
自己破産では、ギャンブルや浪費で過大な債務を負担したときは、免責不許可事由となり、免責を受けることができない場合があります。
個人再生では、制度上は借金の原因を問題としていませんが、分割払いである再生計画を実行できるのかどうかは厳しく審査されますので、ギャンブルや浪費が治っていないならば、再生計画を認可してもらうことはできません。
他方、任意整理では、借金の原因は問題ではありません。
職業の資格制限がない
自己破産では、免責が確定するまでは一定の職業に就く資格が制限されます。弁護士、税理士、公認会計士、会社の取締役、宅地建物取引士、警備員、パチンコ店店長などです。
これに対し、任意整理では何らの資格制限もありません。
旅行や引っ越しの制限がない
自己破産では、旅行や住所の移転は、裁判所に届出て、その許可を得なくてはなりません。許可なく旅行や引っ越しをしたことが発覚すれば、免責を受けることができなくなる危険があります。
これに対して、任意整理ではその様な制限は一切ありません。
官報に掲載されることはない
自己破産や個人再生の手続を行うと、その事実は官報に掲載されます。
一般の方が官報に目を通すことは、まずありませんので、ここから自己破産や個人再生の事実が債務者の周囲の人々に知られる危険性はほとんどありません。
しかし、官報で公表されているからには、その危険が100%無いと断言してしまうわけにもゆきません。
これに対し、任意整理は、法律の制度によるものではなく、当事者同士の自由な交渉によるものですから官報に掲載されることはありません。
保証人、連帯保証人に迷惑がかからない
自己破産における免責の効果は、破産を申し立てた債務者本人にしか及びません。保証人、連帯保証人の責任を免責するものではないのです。
個人再生における再生計画の認可も、個人再生を申し立てた債務者本人にしか効力はありません。保証人、連帯保証人の責任内容まで変更するものではないのです。
これらは、免責決定や再生計画を法律で債権者らに強制する制度なので、債権者の利益を守るため、保証人や連帯保証人の責任には影響を及ぼさないのです。
こうして、債務者本人から全額の回収を図ることができなくなった債権者は、必然的に保証人、連帯保証人に対して全額一括弁済を請求することとなり、必ず保証人、連帯保証人に迷惑がかかります。
これに対して任意整理の場合は、債権者と交わした合意の効力が、保証人、連帯保証人にも及ぶのです。
任意整理の合意は、債権者が納得した結果であって、法律で強制されるものではありません。債権者が減額や分割払いに同意している以上、債務の担保に過ぎない保証人、連帯保証人の責任も同様に扱って構わないからです。
任意整理で債務額を減額したり分割払いとしたりする合意が成立すれば、保証人、連帯保証人が負う責任の金額も減額されます。また、債務者が合意のとおりに分割払いを続けている限りは、保証人、連帯保証人は一括払いの請求を受けることもないのです。
このように、保証人、連帯保証人に迷惑をかけずに済むという点は、任意整理の大きなメリットです。




任意整理のデメリット
ブラックリストに登録される
任意整理を開始すると信用情報機関の信用情報に事故情報扱いで登録されるのです。これがいわゆる「ブラックリスト」入りです。実際には、そのようなリストがあるわけではなく、あくまで情報が登録されるだけです。
この登録は、任意整理の場合では、債務の返済が完了してから5年間経過しないと消えません。
登録されている間は、金融機関に融資を申し込んでも、審査を通ることは難しいので、ローンを組むこと、キャッシング、クレジットカードの発行、スマホや携帯電話の分割払いなどは事実上不可能となります。
もっとも、ブラックリストに登録されてしまうことは、全ての債務整理方法に当てはまりますので、任意整理だけのデメリットではありません。
元金の減額までは難しい
自己破産で免責決定を受ければ債務は100%免除されます。個人再生では債務額にもよりますが、多い場合には債務額の80%から90%もの減額が可能となります。
これに対し、任意整理でどこまでの減額が可能かは、債権者との交渉次第となります。多くの場合、将来利息のカットに応じさせることはできるものの、既に発生している利息金(遅延利息)や元金部分の減額まで、承諾させることはなかなか困難です。


強制力がない
自己破産では、債権者の反対があっても裁判所の判断で免責を決定することができます。個人再生も、小規模個人再生では債権者の過半数(債権者数の過半数かつ債権額の過半数)の積極的な反対がない限り再生計画を認可することができます。さらに給与所得者等再生では、債権者の反対の有無に関わりません。これらは法的な強制力のある制度なのです。
これに対し任意整理は、債権者との話し合いですから、債務者側の分割弁済案を相手に押し付ける強制力は全くありません。この点は、同じく話し合いである特定調停でも同じことです。
弁護士費用がかかる
任意整理を弁護士や司法書士に依頼すれば、弁護士費用、司法書士費用が必要です。もちろん任意整理は債権者との話し合いなので、債務者本人だけでできないという訳ではありませんが、貸金業者というプロの債権取立屋を相手に、法的知識の乏しい素人が交渉をしても、債務整理を成功させることは非常に困難と言わざるを得ません。
他方、特定調停は債務者本人が自分自身で申し立てを行い、簡易裁判所に出頭して調停委員の仲介のもとに話し合いを行うことを予定した制度となっています。そこで、本人だけで特定調停を利用すれば、少額の申し立て費用(収入印紙代、予納郵券代)だけで、コストをかけずに債務整理が可能となります。
収入が必要
個人再生では、再生計画の分割弁済を確実に実行できるよう、反復・継続した収入があることが条件となります。さらに給与所得者等再生では、定期的で変動幅の少ない収入が必要です。
これに対し、任意整理ではこのような法定の条件はありませんが、同じく分割弁済を行うものである以上、今後の収入は当然に必要となります。
現在無収入であっても分割弁済の合意をすることはできますが、すぐに約束を実行できなくなるのでは任意整理を行う意味がありません。
任意整理の合意内容には、分割弁済の約束を実行できないときの取り扱いについて、次のような合意がなされることがあります。
・残債務について一括して弁済する義務が生じること
・残債務には遅延損害金がつくこと(年10%~20%程度)
・債務額のカットがなかったこととなり、当初の債務額を返済すること
このように、分割弁済の合意を守れないのであれば、振り出しに戻ってしまいますので、やはり収入の裏付けは必須といえます。
交渉が難しい債権者も存在する
自己破産や個人再生は法的な強制力のある制度で、しかも全ての債権者を平等に法的に取り扱うので、債権者が貸金業者であろうと単なる個人であろうと同じく効力を及ぼすことができます。
しかし、任意整理では、話し合いに応じるかどうかは債権者次第です。
一般の貸金業者が弁護士や司法書士との交渉を拒否することはありませんが、債権者が友人、知人など個人の場合や、債務が商品の購入代金や工事の請負代金などの借入金ではない場合は交渉を拒否されてしまうケースも珍しくはありません。
このようなケースでは、仮に交渉に応じてもらえても、返済条件に大きな譲歩をしてもらうことは難しい場合があります。
また貸金業者でも、業界自体の景気が悪化している今日では、特に小規模な業者では任意整理の交渉には一切応じないとか、短期(数回程度)の分割弁済以外の案は拒否するという強硬な貸金業者も散見されます。