





今では、債務整理を行うときには、必ず過払い金の有無を確認しますので、債務整理をお考えならば、過払い金返還請求についても知っておくべきです。
過払い金とは
過払い金とは、「過払い」すなわち、過剰に支払ったお金です。本来、支払う義務のないお金を貸金業者に支払ってしまったもので、貸金業者はこれを受け取る権利がありませんから、返すよう請求することができるのです。


過払い金が発生する理由





おかしなこととは、貸金の金利に関する3つの法律のおかしな関係が放置されてきたことです。
3つの法律とは、「利息制限法」、「貸金業法」、「出資法」のことです。
①利息制限法に実効性がなかった
まず利息制限法について説明しましょう。
利息制限法は、金銭の貸し借りをする際の利息について、許される利率の上限を定めた法律です。
これはお金を借りる際、どうしても立場の弱くなる借主が、高い利息を押しつけられないよう保護するための法律です。
利率は、元金の額によって3種類に区別され、次のとおりに定められています。
元金 | 利率 | 違反したときの効果 |
---|---|---|
10万円未満 | 年20% | 左の利率を超える利息の約定は違法で無効。 借主に支払い義務無し。 しかし、貸主に罰則はない。 |
10万円以上100万円未満 | 年18% | |
100万円以上 | 年15% |
金銭の貸し借りについての契約(金銭消費貸借契約)に際して、この利率を超える利率の利息を定めても、その利息の約定は利息制限法違反として違法であり、無効となりますから、借主に支払義務はありません。
しかし、ここが問題ですが、借主に支払義務がないにもかかわらず、
- (ⅰ)利息制限法に違反する利息をとっても、利息制限法には罰則(罰金や懲役刑)がないため、実際には違法行為をやり放題だった
- (ⅱ)違法な利息でも、借主が支払ってしまえば、貸金業者は返さなくても良いという一定の例外(貸金業法の「みなし弁済規定」)が認められていた
という2つの問題のために、貸金業者との関係では、利息制限法は骨抜き状態だったのです。
②利息制限法と一致しない出資法の規制
利息制限法には刑罰の規定がなく、その代わりに高すぎる利息を刑罰をもって禁止していた法律が出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)です。
ところが、出資法では、次のように利息制限法の利率をはるかに超える利率が許されていたのです。
出資法の上限利率
2000(平成12)年6月まで | 年40.04% |
---|---|
2006(平成18)年6月まで | 年29.2% |
これでは、利息制限法に違反しても、出資法の定めている高利より下である限り,貸金業者は処罰されません。
利息制限法の利率を超えた利息は違法(白ではない)であるにもかかわらず、出資法で禁止された利率には届いていないことから刑罰を受けない(黒ではない)のです。白でも黒でもないので、グレーゾーン金利と呼ばれたのです。
③グレーゾーン金利を貸金業者の利益とさせた旧貸金業法の「みなし弁済規定」
利息制限法違反の利息に対する罰則がなくても、受け取ったら返さなくてはならないとされていれば、グレーゾーンを利用して貸金業者が儲けることはできなかったはずです。
ところが、貸金業法(旧名称:「貸金業の規制等に関する法律」2007年迄)は、貸金業者を規制する法律であるにもかかわらず、先にも述べましたとおり、悪名高き「みなし弁済」規定(旧貸金業法43条)というものがありました。
これは、利息制限法の利率を超えた違法な利息でも、貸金業者が法定の書類を交付していること等を条件として、借主の任意による支払である限り、利息の支払として有効とみなすものです。
貸金業者は、グレーゾーン金利の範囲内であれば処罰されないのを良いことに、利息制限法の利率を超え、出資法で禁止されるギリギリの高利を取り、この「みなし弁済規定」があるから、違法な利息でも返す必要がないとしてきたのです。
④最高裁が「みなし弁済」規定の適用を制限




暴利をむさぼって暴力的な取り立てをするサラ金や商工ローンの問題、多重債務者の増加や自殺の問題が告発されるにつれて、社会は貸金業者の態度に厳しい目を向けるようになりました。裁判所も例外ではありませんでした。
「みなし弁済」規定は、最高裁判所の判決(2006(平成18)年1月13日)によって、適用可能な条件が著しく制限され、事実上この規定を適用できる場合はなくなったと言われるに至りました。
もはや利息制限法違反の利息を受領した貸金業者は、返還を拒むことができなくなりました。これが過払い金返還請求なのです。
2010(平成22)年6月からは、出資法の上限金利は利息制限法と一致する年利20%に引き下げられてグレーゾーン金利はなくなり、貸金業法の「みなし弁済」規定も廃止されました。
利息制限法に違反したら処罰され、受け取った利息は返さなくてはならないという当たり前のことが、ようやく実現したのです。
過払い金返還請求と債務整理の関係


①正しい債務額を算出する引き直し計算
過払い金が発生するケースを理解していただくためには、「引き直し計算」について知っていただく必要があります。
通常、貸金業者からの借金は毎月利息をとられます。
利息制限法違反の利率を約定した場合は、毎月の利息金の中に利息制限法の利率を超えた部分があることになります。
これは、「払い過ぎ」の部分ですから、毎月の支払いごとに「過払い金」が存在していたのです。
計算を簡単にするために単純な例をあげて説明しましょう。元金120万円12ヶ月払い利率年30%としましょう。
利率年30%は、月単位にすると、30%×12分の1=2.5%です。
したがって、最初の1ヶ月は、元金の分割払い10万円に加えて、120万円の1ヶ月分の金利120万円×2.5%=3万円がかかります。
最初の1ヶ月の支払い額13万円
しかし、利息制限法で許された利率は20%で、月単位にすると、20%×12分の1=1.66%です。
最初の1ヶ月分の適法な利息は、120万円×1.66%=1万9920円となります。
最初の1ヶ月分の適法な支払い額は、10万円+1万9920円=11万9920円なのです。
したがって、差し引き、1万80円が「過払い金」となっているわけです。
この利息制限法を超えた利息支払いの部分を「超過利息」と呼びます。
超過利息の部分は、本来、支払い義務のないお金ですから、その支払いは利息ではなく、元金の返済に充てたものと取り扱われるのです。
上の例で見ると、
最初の1ヶ月の13万円の支払いは、貸金業者との契約にしたがえば、元金の返済が10万円、利息の支払いが3万円となり、借金の元金は110万円残っていることになります。
しかし、利息制限法にしたがって計算すれば、最初の1ヶ月で支払った13万円のうち、利息の支払いは1万9920円だけであり、11万0080円が元本の返済に充てられたことになりますので、借金の元金の残りは108万9920円となり、これが法的に正しい計算となるのです。
さて、次の1ヶ月はどうなるでしょうか?
貸金業者との約定にしたがうと、
元金の分割払い金 10万円
利息 110万円×2.5%=2万7500円
合計12万7500円を支払うことになります。
しかし、利息制限法にしたがった引き直し計算をすれば、次のとおりです。
元金の分割払い金 10万円
利息 108万9920円×1.66%=1万8092円
合計11万8092円が法的に正しい支払い額なのです。
したがって、2ヶ月目には、貸金業者との約定どおりの金額12万7500円との差額である9408円が過払い金となり、元金の返済に充てられるわけです。



②引き直し計算の3パターン
このような引き直し計算には、次の3つのパターンがあることになります。
- (ⅰ)貸金業者との約定に従った元金と利息の全額をすでに完済していた方は、利息制限法違反の利率である限り、必ず過払い金が発生しています。
- (ⅱ)貸金業者との約定に従った元金と利息を返済途中の方は、次の2つに分かれます。
- (ⅱ)-A:利息制限法違反の利息を払ってきたために、貸金業者との約定にしたがって計算した残債務(残元金)よりも、少ない残債務(残元金)であることが判明するケース
このケースは、毎月支払ってきた超過利息(過払い金)が元金の返済に充てられて、約定よりも元金が減少しているものの、まだ元金全額の返済には至っていません。
しかし、貸金業者が主張する約定の残債務よりも、少なくなっていますから、その金額を残債務額として、債務整理を行えば良いのです。 - (ⅱ)-B:毎月の超過利息が元金の返済に充てられたため、すでに元金及び利息の全額を完済していたにもかかわらず、これに気づかなかったため、完済後も元金の返済と利息金を支払い続けてきたことが判明するケース
このケースは、計算上すでに(ⅰ)のケースとなっていたことに気づかずに支払いを続けていたケースです。
もはやこの債務は消滅していますから債務整理の必要はなく、完済となった以後に支払った金銭は、(ⅰ)と同様に、元金分も利息分もすべて過払い金として返還を請求できます。
- (ⅱ)-A:利息制限法違反の利息を払ってきたために、貸金業者との約定にしたがって計算した残債務(残元金)よりも、少ない残債務(残元金)であることが判明するケース
③過払い金の有無の確認が債務整理の前提






過払い金返還請求権があるならば、それは本人の資産と評価されますから、放置したまま手続を進めることはできません。
例えば、自己破産の場合、申立の前に弁護士が回収しておくか、それができない場合には、破産管財人が回収することになります。
個人再生の場合は、債務者の資産として、再生計画で最低限支払わなくてはならない金額(清算価値保障の要件)の計算に加えられることになります。
特定調停でも、簡易裁判所が貸金業者に対して引き直し計算をした資料の提出を命じたり、調停委員自身が引き直し計算をしたりして、正しい債務額を前提とした調停を行うのです。
