家族、職場に内緒で、債務整理は可能か?

家族、職場に内緒で、債務整理は可能か?

ゆき
債務整理をしたいけれど、家族や職場にばれてしまわないか、とても心配です。
しんじ先生
債務整理で親しい人たちに借金の存在を知られることが不安だという気持ちは誰もが抱える悩みです。では債務整理の方法毎に、家族や職場に知られずに行えるかどうかを説明しましょう。

自己破産の場合

自己破産の場合

家族に内緒で自己破産できるか?

自己破産では、家族に内緒で手続をできるかどうかは、同時廃止事件か管財事件かによって異なります。

同時廃止事件では、弁護士に自己破産申立を依頼すれば、裁判所との書類・電話のやり取りは、全て弁護士が行なってくれます。裁判所からの書類も全て弁護士事務所に送られます。

裁判所に出頭するのは、最後の免責審尋の1回だけです。当日は弁護士が同行、同席してくれます。

このように、同時廃止では弁護士と裁判所の間だけで手続を進めてもらえるので、裁判所からの連絡や書類が自宅へゆくことはなく、家族に内緒で手続を進めることは不可能ではありません。

これに対し、管財事件では破産管財人が選任され、債務者に一定額以上の資産(※)がないかどうかを調査され、それがあれば処分されて債権者への配当に充てられます。

※20万円以上の資産、99万円を超える現金。ただし、裁判所によって基準が異なります。

隠し財産の有無を確認するため、債務者宛の郵便物は、全て郵便局から直接に破産管財人の事務所に送られますから、自宅に郵便物が届かなくなります。

また例えば家族の名義で一定額以上の財産があるときは、それが実質的には債務者本人の財産ではないかどうかを確認する必要があるので、破産管財人から家族に対して問い合わせされる可能性もあります。

したがって、管財事件では、家族に内緒で手続を進めることは事実上困難です。

職場に内緒で自己破産できるか?

裁判所や破産管財人から、直接に職場に連絡がゆくことはありません。

ただし、サラリーマンは、管財事件、同時廃止事件を問わず、退職金債権の有無と金額を裁判所に届出する必要があります。退職を強要されることはありませんが、一定額以上の退職金債権(※)は債務者の資産と扱われるからです。

※詳しくは、自己破産のメリット・デメリットの記事をご覧ください。

このため通常は、会社の経理部署に退職金額の証明書を発行してもらうことになります。

その際、「破産手続のために裁判所に提出する」と経理担当に告げる義務があるわけではありませんが、会社によっては、担当者から提出先を確認される可能性がないわけではありません。通常、職場に発覚してしまうリスクは、事実上、この場面だけです。

ゆき
退職金の証明書なんて、使いみちを聞かれてしまいそうでドキドキしますね。
しんじ先生
実際にはローンを組むので銀行に提出するという言い訳で済んでしまう場合が多いようです(笑)。

官報やブラックリストで家族や職場に発覚するか?

自己破産手続を行なったことは官報に掲載されますが、一般のご家族や職場の方が、官報に目を通すことはありませんから、この点を心配する必要はありません。

ただ、自己破産で信用情報機関のブラックリストには登録されるので、5年から10年の間は、金融機関から新規の融資を受けることはできませんし、クレジットカードも使えなくなります。ここから家族に自己破産の事実が知られてしまう可能性は否定できません。

個人再生の場合

個人再生の場合

家族に内緒で個人再生できるか?

個人再生の申立てを弁護士に依頼すれば、書類のやりとりや連絡を弁護士が担当してくれることは自己破産と同じです。

そして、個人再生では、自己破産の管財事件のように、郵便物が破産管財人の事務所に送られるということはありません。

しかし、個人再生でも、裁判所や事案によっては、個人再生委員という債務者を指導監督する立場の弁護士を選任する場合があります(例えば、東京地裁では必ず選任されます)。

個人再生委員は、破産管財人のように債務者の資産を処分する役割はありませんが、債務者の収入や資産を調査して裁判所に報告することも職務のひとつです。個人再生委員から家族に対する問い合わせがないとは言い切れないのです。

また、個人再生は再生計画(分割弁済)の実施をするための手続です。個人再生によって、債務額は大きく減額できるとはいえ、原則として3年間の分割払いを完済しなくてはなりません。そもそも分割弁済が可能かどうかを審査するにあたっては本人だけでなく家族の収入も考慮されますし、独身の単身者でない限り、実際上、家族の協力なしに実現することは困難でしょう。

ゆき
個人再生は家族に内緒は難しいようですね。
しんじ先生
家族に内緒で個人再生を行えないか考えるよりも、個人再生による債務整理を成功させるために正直に家族に打ち明けて協力してもらうことを考えるべきですね。

職場に内緒で個人再生できるか?

サラリーマンの場合に、会社の退職金証明書を裁判所に提出する必要があること、その際に会社の経理などに質問されて知られてしまう事実上の可能性があることは自己破産と同じです。その点を除けば、特に職場に知られる危険はありません。

官報やブラックリストで家族や職場に個人再生が発覚するか?

個人再生の手続をしたことは官報に掲載され、信用情報機関のブラックリストにも登録されるので、この点は自己破産で説明したことがそのまま当てはまります。

任意整理の場合

任意整理の場合

ゆき
裁判所を使わない任意整理の場合は家族に秘密にできませんか?
しんじ先生
家族にも職場にも秘密にできます。弁護士に依頼すれば、任意整理は家族や職場に内緒でできることが通常です。

任意整理は、債権者との間で減額と分割弁済の話合いをすることですから、弁護士を依頼すれば、債権者との電話や書類のやりとりは一切弁護士が担当してくれます。

債権者が貸金業者など金融機関である限り、債務者本人、家族、職場に連絡がゆくことはありません。

ただし、債権者が友人、知人などの個人の場合は、弁護士といえども、その者が家族や職場に連絡することを止める権限はありません(もちろん、本人への連絡をしないように強く要請しますが、強制することはできません)。

また、債権者が金融機関でも、事案によっては、給与の差押え手続を行ってくる場合もあり、その場合は、職場や家族に発覚してしまいます。

金融機関が給与などの差押え手続を行うのは最終手段ですので、弁護士が介入して債務整理の話合いがスタートすれば、このような事態を避けることができます。返済が滞ったら、できるだけ早く弁護士に相談するべきです。

なお、任意整理は官報には載りませんが、ブラックリストに登録されることは自己破産、個人再生と同じです。

ゆき
任意整理でも100%確実に秘密にできるとは言えないのですね。
しんじ先生
知られてしまう可能性は、どんな手続にもあります。ただ、実際上、早めにきちんと弁護士などに依頼して対処すれば、任意整理が発覚する危険は限りなく少ないと思います。

特定調停の場合

特定調停の場合

特定調停は、債務者本人だけで申立てをしても、家族や職場に内緒で手続を進めることができます。

特定調停は、簡易裁判所の調停委員が債権者との話合いを仲介してくれますが、家族や職場に知られないように配慮を希望することを申立ての段階から裁判所に伝えておけば、電話での連絡は携帯電話にかけてもらえますし、書類は郵送ではなく、債務者本人が裁判所に受け取りにゆくという扱いにしてもらえます。

金融機関の債権者が、本人、家族、職場に連絡をすることはないこと、債権者が友人、知人などの個人の場合は、調停委員といえども、その者が家族や職場に連絡することを止める権限がないこと(これも調停委員は、本人への連絡をしないように要請しますが、強制はできません)、官報に掲載されないこと、ブラックリストに登録されることは、任意整理と同じです。

ゆき
特定調停は本人だけで債務整理ができるように作られた制度だから、裁判所も秘密に配慮してくれるのですね。

過払い金返還請求の場合

過払い金返還請求の場合

ゆき
過払い金返還請求は家族や職場に知られないでしょうか?
しんじ先生
大丈夫です。過払い金返還請求は、弁護士に依頼すれば家族に内緒で行うことができます。

過払い金返還請求は貸金業者との交渉で返還を求める段階と、話がまとまらず裁判所に過払い金返還請求訴訟を起こす段階の2つに分かれます。

いずれの段階も、貸金業者や裁判所との電話・書類のやりとりが不可欠なので、本人だけで進める場合には、電話・郵便によって家族に発覚してしまう事実上の危険性は否定できません。

しかし、交渉も訴訟も弁護士に依頼をすれば、貸金業者、裁判所とのやり取りを全て弁護士が担当するので、本人や自宅に連絡・郵便が来ることはありません。

また、過払い金返還請求は貸金業者に権利を行使するだけですから、弁護士の有無にかかわらず、貸金業者から職場へ連絡がゆく事態は考えられません。

もちろん官報にも掲載されませんし、ブラックリストに登録されることもないのが原則です。